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JFA Proライセンスコーチ
池谷 孝
プロフィール
1990~2001
浜松西高 サッカー部監督
(インターハイ静岡県予選準優勝1回、3位2回、高校選手権予選10年連続ベスト16以上)
1992
静岡県U18少年選抜コーチ(山形国体優勝)
1996
静岡県U18少年選抜監督(広島国体優勝)
2003~2004
藤枝東高 サッカー部ヘッドコーチ
(全国総体・全国選手権2年連続出場、東海総体2年連続優勝)
2004~2020
清水エスパルス アカデミーセンター長
2005~2007
JリーグU-15選抜コーチ・監督
2013~2014
JリーグU-16選抜コーチ・監督
2016~2020
静岡大学 サッカー部監督(客員教授)
2021
成都FAアカデミー(中国四川省)ユーステクニカルダイレクター
2022
福島県サッカー協会FAコーチ
2023~2024
WEリーグ ちふれASエルフェン埼玉 トップチーム監督
■ ゼロからのスタート
私が浜松西高に初めて赴任した当時、校風はまさに「文武両道」を体現するものでした。学業面では大学進学を目指しながら、スポーツ面では、バスケットボールや陸上、水泳、柔道などが全国レベルの実力を誇っていました。しかし、サッカー部に関しては、1956年の国体県予選を最後に低迷期が続いている状況でした。指導者が7年間不在で、練習用のボールもわずか4つ…。そんな状況から、私はチームの立て直しに取り組むことになりました。まさに“ゼロからのスタート”です。最初に取り組んだのは「明確な最終目標」の設定でした。私は赴任前から自身の目標を「全国レベルの選手とチームを育成し、日本を代表する存在にする」と決めていました。そこで、浜松西高のサッカー部の最終目標を「全国大会で活躍できるチーム作り」と定めました。その達成に向け、まずは県大会で成績を上げることを第一目標としました。
次に私が取り組んだのは「トレーニングの質の見直し」です。どんなに優秀な素質や技術があっても、間違った方法で練習を続けていては全く意味がありません。正しく、質の高いトレーニングと努力の継続こそが、目標達成への最短ルートだと考えたのです。それからは、ミーティングなどを通じて、部員たちに私の考え方や、私がイメージしている目標を共有するように努めました。監督だけが上を目指していても、選手がそれぞれ違う方向を向いていては前進できません。全員が同じ方向を見て「よし、あそこを目指そう!」と強い気持ちで走り出すことで、チームとしてゴールにたどり着けるのです。この強い気持ちというのが、私の教育テーマでもありますが「一流の人間、一流のサッカーマンを目指す」ことであり、「小さな結果を積み重ねることで、その先の大きな目標と成果を手にする」ことにつながっていきます。
■ オランダ遠征での思い出
もうひとつ、私が考えたことは「チームが一丸となって一流を目指すなら、本物のサッカーに触れる必要がある」ということでした。そのため、可能な限り、強豪校と呼ばれるチームと練習試合をしましたし、公立高校のサッカー部としては珍しい海外遠征(オランダ2回、韓国1回)も実施しました。特にオランダのサッカーに関しては、オランダという国が持つ歴史的・構造的な斬新性がそのまま表現されており、私自身も非常に関心を持っていました。そこで、自分なりにオランダのサッカーを研究し、オランダ式のトレーニングを積極的にチームに取り入れていました。余談になりますが、1回目のオランダ遠征の際、現地の指導者から「そのトレーニングで問題はない」と太鼓判を押していただいたことは、大きな自信になりました。しかもその指導者というのは、1988年のユーロ選手権で優勝したオランダ代表において、名将ミケルス監督の下でコーチを務められたライター氏だったのです。こうした取り組みの結果、浜松西高赴任から3年目にして高校選手権予選でベスト16に入るまでにチームは成長し(その後10年連続でベスト16入り)、4年目にはインターハイ予選で県ベスト4となる準決勝に進出。その後も準優勝や3位を獲得するまでに成長しました。
■ 基本原則と成功する選手の特徴
私は指導の基本原則として「TEACH 」「COACH」「MOTIVATE」「HELP」の4つを大切にしてきました。

◆ TEACH:徹底的に教えること
◆ COACH:主体性を大事にしつつ選手自らが成長し、自分の世界を作る手助けをすること
◆ MOTIVATE:選手のやる気に火をつけ、本気にさせること
◆ HELP:人生における様々な場面で手助けやサポートをすること

加えて、目標とするサッカーやそこに至るまでの道筋を文字、言語、あるいは視覚的な工夫を施して、チームに伝え、常に意識させてきました。哲学や目標、プロセス、指導の文字化言語化可視化です。同時に、自分自身の指導者としての自己評価も欠かさず行いました。トレーニング後には自らの指導を振り返り、選手に直接意見を聞くこともありました。指導者として「知らないことがないようにする」のは当然ですが、もし知らないことがあれば、それを素直に認めて学ぶ姿勢を持つことが重要だと考えています。
こうした教育の成果を通して、だんだんと「サッカーに本気で取り組む」選手が増えていきました。小粥(智浩)や渡辺(光輝)がその代表例であり、彼らが当時手にした「本気」こそが今の原動力となっていると思います。また、浜松西高での指導がそうであったように、選手の意識を高めるためにはグローバルな視点からの指導や情報提供も欠かせません。そうすることで、より高い目標を持てるようになります。成功する選手にはいくつか共通する特徴があります。

◆ 良き指導者と出会っている
◆ ボールを扱う技術と思考力がある
◆ 明確な目標がある
◆ サッカーを愛し、感謝の気持ちを忘れない
◆ 現状に満足せず、高みを目指し続ける
◆ チャンスを逃さないアンテナを張っている

こういった特徴の積み上げがきちんとできている選手ほど成功しているように思います。ですので、サッカー選手を目指す子どもたちには、まず「ホンモノとは何か?」を考えてほしいのです。また、技術の習得だけでなく、周囲をよく観察し、正しいポジションとタイミングでボールに関わっていくことの大切さを伝えていくことも重要です。己を知った上で、自身の特長を生かしたサッカーを見つけられたら最高ですよね。
■ 全てはご縁とタイミング
思い返せば、私はこれまで様々な“ご縁とタイミング”のおかげで、自身の思いを形にしてきました。公立高校の海外遠征という面で言えば、旅の運営をしてくださった杉山政行さんなしでは実現は難しかったでしょう。また、国体でのコーチや監督の経験においては、山形国体で渡辺を、広島国体では岡本(淳一)をそれぞれレギュラーに起用しなければ優勝することはできなかったと思いますし、内藤(康貴)や佐野(伸介)などは今でもサッカーに関わり続けており、本当に嬉しく思います。もし彼らとサッカーを通じて出会っていなかったら、全く異なる人生を歩んでいたかもしれません。そう考えると、すべては人と人とのつながりが作ったご縁であり、それがジャストなタイミングであったからこそ成し遂げられたのです。

オランダのサッカー哲学には「良き指導者と良き選手の循環を作り出すことで、長期的な成功を掴むことができる」というものがあります。つまり、良き指導者に育てられた選手がやがて指導者となり、また良き指導者として新たな選手を輩出する…。そんな循環を作ることで、次世代にバトンを渡していくのです。いわばサッカー文化を醸成する考え方ですね。これにもうれしい好例がありまして、インターハイ予選準優勝時のストライカーだった小枝の息子(小枝朔太郎/ジュビロ磐田ユース)が、現在、アンダー世代の日本代表として活躍しています。まさに循環が生まれてきているんですよ。このように、私がこれまで指導してきた幾多の選手たちが、現在もサッカーに携わり、各所で指導者として活躍していること、息子の健太も指導者の道を歩んでいること、そして彼らがサッカー文化の循環を作り出してくれていることは、私にとって何よりの喜びです。ひょっとしたら全国各所でのこういう「循環」が、私たちの夢でもある「ワールドカップ優勝」への鍵なのかもしれませんね。
活躍する教え子たち「池谷チルドレンの現在地」
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